魔法科高校の劣等生7巻の核融合の下りが酷い…

読んでる途中ですが、元専門の内容に関連するだけに、ツッコミ入れたくなるなぁ、これ。というか、入れよう、ツッコミ。
核融合のメインの課題が、酷く乱暴に言えば、核融合を起こすほどに高速に原子核同士をぶち当てるにはどうするか、という点なのは、まあ、間違ってはいないんだけどね。現実の核融合に関する誤った理解を促しているようにしか見えないので、いい加減な内容で論理を展開するのはやめて欲しい。それなら、嘘だと最初から分かるトンデモ論理展開している方がマシ。
私もこっちの業界から離れてそこそこになりますし、詳細な計算式などは忘却のかなたですし、知識も一昔程度前のもので多少古い可能性はありますけどね…。


75ページあたりから。セリフの部分を引用抽出していきます。

一つは、燃料となる重水素をプラズマ化し、反応に必要な時間、その状態を保つこと。この問題は放出系魔法によって既に解決されています

後半は、まあ、作品内の設定だから別に良いと言っても良いけど、これは、現時点でも問題ではない。水素だろうが重水素だろうが、加熱してプラズマを作るのはそう難しいことじゃないし、むしろ、反応に必要な時間と言う言葉が出てきている時点で、加熱の目的を間違えている気がする。

核融合発電を阻む主たる問題は、プラズマ化された原子核の電気的斥力に逆らって核融合反応が起こる時間、原子核同士を接触させることにあります

多分、エネルギー閉じこめ時間とかを聞きかじって間違った理解をしたんだと思うけど、核融合反応が起きるために原子核同士が衝突する際に接触している時間なんて概念は影響しません。核融合が起きるのは、原子核同士が、ここで言う電気的な斥力、つまり両方が正の電荷を持つことによる電気的な障壁を乗り越えられる速度で衝突が起きた時です。
そもそも、なんで、核融合にプラズマが出てくるかの理解自体が間違っているのだと思う。プラズマ化しないと核融合反応が起こせないのではなくて、核融合反応が起きるくらいのエネルギーを持った原子核はそのエネルギーが大きすぎるから必然的にプラズマになるだけの話です。一般的にプラズマというと、よく分からないいかがわしい科学の象徴みたいなイメージが有ったりしますが、本来のプラズマという概念はもっと単純です。物質の三態という話がありますが、実際にはプラズマはその第四の状態に当たります。固体を加熱すると、より自由度の高い液体になり、さらに、加熱されて分子間の結合が解かれた状態が気体です。プラズマはそれを更に加熱し、分子という繋がりはおろか、原子を構成する電子と原子核が分離した状態を言うのです。そのため、プラズマは非常に高温な気体とも言えます。
そして、単に核融合反応を起こしたいだけならば、加速器でも使って原子核を加速してぶつければ簡単に起きます。ただ、その際に発生するエネルギーを取り出せなかったり、そもそも、その加速にかかるエネルギーの方が遥かに大きいというだけの話です。
あるいは、現存する磁場閉じこめ式の核融合プラズマの実験装置であっても、核融合反応は起きています。それは、実験装置内の壁面が僅かに放射化していることから、まず、間違い有りません。ですが、核融合発電は実用化されていません。それは、核融合が発生する頻度があまりに低いからというだけの話です。
これも厳密には正確な表現ではありませんが、プラズマの温度が保たれた状態にするためには、発生したエネルギーが外に逃げる量と核融合で生まれたエネルギーの収支が合っている必要がある。そのためにエネルギーをどれだけ閉じこめていられるかを数字にしたのが、エネルギー閉じこめ時間という、プラズマの評価のための概念です。なぜ、プラズマの温度を保つ必要があるか、というと、先に書いた核融合が発生する頻度が温度に比例するからです。

非魔法技術により核融合を実用化しようとした先人たちは、強い圧力を加えることによって電気的斥力に打ち勝とうと試みてきました

プラズマの密度を高めることは核融合の条件の一つになりますが、磁場閉じこめにせよ、慣性閉じこめにせよ、強い圧力を加えることで電気的斥力に打ち勝とうとするような手法ではありません。密度が高いことは衝突の頻度が増える条件であり、さらに、高温の粒子が逃げることでプラズマが熱を失うことを防ぐための条件にもなるために、重要視されることであって、例えば水素を外から沢山注入してパンパンにすれば核融合が起きる、という類のモノでもありません。

しかし、超高温による気体圧力の増大も、表面物質の気化を利用した爆縮の圧力も、安定的な核融合反応を実現するには至りませんでした。

まあ、とりあえず、あらゆる核融合の研究者にケンカ売ってますなぁ。実際、実用化より人類の衰退の方が前に来るとは思いますが…。未来に舞台を置いて、核融合を実現しようとした先人たちと言っているからには、科学技術による核融合は諦められて研究も行われなくなりました、って言ってるわけですからね〜。
圧力がポイントじゃないというのは先と同じ。磁場閉じこめとレーザーによる慣性閉じこめを意識してるんだろうなぁ、というのは分かりますが。

そこには様々な理由があります。例えば格納容器の耐久性の問題、例えば燃料の補充の問題。核融合の維持自体には成功しても、生み出されたエネルギーが大きすぎて実用化ができないという例もありました。

格納容器の耐久性の問題って何だ?格納容器と言うからには多分磁場閉じこめ方式なんだろうなぁ。
ん〜とね、ここに挙げられている問題は、基本的に、実際に有る問題の例です。多分、こういう問題が解決されないといけないんです、という紹介資料をパクって来たんでしょう。ただ、これが、実用に至らなかった各種理由で、いずれも解決されませんでした、というのはnonsenseです。これらは、全て、核融合が起こせるようになった暁には問題になるだろう、並列して解決していった方が良いよね、という問題群です。
例えるなら、自動車を開発する上で、エンジンが開発できません、と言っているのが核融合を起こす、特に臨界や自己点火条件を満たす、という課題です。それに対して、ここに挙がっている問題は、窓ガラスの耐久性に問題があります、とか、タイヤのグリップが足りません、とか、燃料タンクが大きくなりすぎます、とか、そういう程度の問題なんですよ。エンジンが開発された暁にはこういう問題があるよね、という。もちろん、それぞれが研究分野なんですけどね?
格納容器の耐久性の問題も、先に圧力の話があるから、圧力に耐えられないとかそういう理解なんだろうなぁ。全く持って違いますからね?そもそも、格納容器にかかる圧力なんてたかが知れています。真空引いた時に外から大気圧がかかる程度で、むしろ、核融合プラズマの圧力は殆ど大気圧程度になるという試算があるくらいです。たかが大気圧に耐えられないとすると、魔法瓶だって実用化できませんよ…。
むしろ、格納容器の目的は、プラズマを空気から守るためのものです。プラズマは、真空中に水素を噴出して、磁場を形成した上で、マイクロ波や中性ビームなどを注入することで作ります。そして、作られたプラズマは、磁場によって制御されて、格納容器とは接触しません。というか、直接物体による圧力がかけられず、磁場を用いるのは、そもそも、プラズマと固体の格納容器の間では持っている熱に大きな差が有るからです。その両者が接触すると、接触した端からプラズマはエネルギーを失って行きます。結果、核融合はおろか、プラズマの状態だって維持できません。厳密に言うと、触れられないプラズマにちょこっと触れて、エネルギーを取り出すための方法に関する研究というのがあって、ついでに燃料となるトリチウムの補充もそれでできないか?みたいな話がある程度です。同様に、空気が流れ込んでくると、空気の分子と衝突した水素プラズマは、エネルギーを大量の空気の分子に受け渡し、気体に戻ってしまいます。というか、薄められるという感じでしょうか。プラズマを構成する水素の量は大気圧の空気と比べると数が遥かに少ないですので…。真空にせず、プラズマを作ろうとするのは、いれたて熱々の1杯のコーヒーを25mプールに流すみたいな無駄なのですよ。
で、格納容器の耐久性の問題というのは、どちらかというと、核融合が実現した暁には、プラズマからもっとバンバン放射線が出てきて、壁面がどんどん痛んでくるよね、でも格納容器を交換するのは簡単じゃないよね…そのときはどうしようか?という問題です。核融合を起こすための問題じゃないです。
燃料に関しては、現在有望と考えられている重水素三重水素のプラズマによる核融合の場合、三重水素(トリチウム)の補充が水素や重水素みたいに気体として注入すれば良い物じゃないので、方法を考えないとね、というものです。重水素によるプラズマにしか言及していないところで出てくる話じゃないです。
生み出されたエネルギーをどう回収するかは、磁場閉じこめも、慣性閉じこめも課題として認識はされていますが…大きすぎて…?と言われると違和感が。どちらかというと、制御することを全く考えていない水爆からエネルギーを取り出すのって難しいよね?(ハート)って言ってるようにしか聞こえません…。

しかし全ての問題は、取り出そうとするエネルギーに対して融合可能距離における電気的斥力が大きすぎるという点に収束します

はっはっは。窓ガラスの耐久性に問題があります、とか、タイヤのグリップが足りません、とか、燃料タンクが大きくなりすぎます、とか、言った上で、でもやっぱり問題の根本は、燃料の燃焼方法にあります、って言ってるようなモノですね。根本はそうだけど、それを克服するためにエンジンの設計をこう工夫しようぜ、っていう研究が成されている中で、それを全て無視してそんなこと言われてもなぁ。例えば、風邪の特効薬の研究の話をしていたはずなのに、最後に、でもやっぱり風邪を引くのはウィルスが原因です、って今更言ってるようなモノだからなぁ。


その後の、クーロン力を10万分の1にしました、の部分は別にフィクションだし別に良いですよ。まあ、できればそれを実現するためのアイデアを示して貰えればもっと面白かったとか、思わなくもないですが…。
ただ、演出を目的として、身の丈に合わない考察を展開して、嘘を書き連ねるのは止めて頂きたいと切に願います。少なくとも、読んでいる限りでは、とても不愉快でした。その分野の専門的な教育を受けたこともなく(受けたのだとしたら、それはそれでこの出来というのは驚きですが)、その分野の専門家の意見や添削を経ることもなく、風説を流布するのは、その分野において従事している人間からすれば、侮辱されたに等しいことだと思いますよ。