英単語のカタカナでの表記

時々、ネットを徘徊していると見かけるのですが、あるカタカナ表記はおかしい、元の読みから考えればこういう表記が正しいはず…という主張。正直、馬鹿馬鹿しいと思うのですよ。日本語として、お互いに分かる表記なら良いじゃん、と思うのです。


とまあ、そーゆー話を進める前に、一応、断っておくと、当方、20年以上前に小学校前から小学校の殆ど6年間をイギリスはスコットランドで過ごした元・帰国子女*1です。現地校に通っていたこともあって、英語で考えて英語で喋れる、完全なバイリンガルだった時代も大昔にはあったみたいですが、現在はそのレベルの能力は失って久しいです。ただ、英語系の音の聞き分けはできる能力は残っており、訛りはスコットランド訛りから、中・高の日本での教育を経て、米語訛りに矯正されました*2。会話の組み立て自体がダメダメになっていますので、すぐにバレますが、米国出張で、初見では「え?お前ネーティブだろ?」って言われるくらいには米語らしく喋れてるみたいです。
自慢したいわけでも無いのですが、事実は事実ですし、今回の話をするスタンスの前提として言っておく必要があるかと思いましたので。あと、自慢したいわけでも無いというのも言葉の通りで、感心されたりうらやましがられたりすることも多いですが、正直嬉しくは有りませんし、むしろ、それを誇りに感じたりしていないことの思いに共感して貰えないことに苛立ちを感じることの方が多いです。米国やイギリスに行ってご覧なさい、小学生でさえ流ちょうな英語を喋っていますよ?つまり、この能力は、先天的な才能でも無ければ、努力により身につけたモノでもない、環境によって必然的に身についたものに過ぎないのですよ。そんなものを褒められても困るのです。


ん〜、話が盛大に逸れてますね。まあ、いいや。
まあ、そういう背景があって、先のようなカタカナ表記の揺れの話を見ると、ぐんにょりとした気分になることが多いので、いつかネタとして取り上げよう…と思っては忘れを繰り返していたのです。
私の基本スタンスは、先の通り、日本語の表記として良く使われている表記で通じるならそれで良いじゃない、という派。とりあえず、通用派とでもしておきましょう。それに対して、ぐんにょりするのが、元の音に忠実にを標榜する派。こっちは原音派とでもしておきますか。
意図して探そうとすると、中々、そう言う例に行き当たらないのが面倒なんですが…どっかに無いかな?と、2chスレで「片仮名表記はなるべく英語の原音に近づけるべき」ってのがあった…。ちょっと眺めましたが、すっごくぐんにょりする…。
そこに挙がっている一例から。

481 :名無しさん@英語勉強中:2012/03/05(月) 19:27:59.39
ペンギン→ペングウィン
ガレージ→ガラージ
セロファン→セロフェイン

ちょっとした違いだが、敢えて修正したい。

原音に多少、近付いていることは認めましょう。でも、多分日本人がそれを読んで発音して、通じる可能性は大して上がりません。状況や前後の判断から理解をしてくれるかも知れませんが。むしろ、日本語の文脈の中で、これらの表記が出てくる時に読んでいるのは大抵日本人なわけで、その日本人に通用しづらい表記をことにメリットが無いと思うのですが。一応、個別に見ておきますか。
一番目のpengwinは、2音節で、ペーン・グウィンに近いですが後ろのグウィンは1音節なのでグとウの音は殆ど独立していません。日本語でこれを読むと5つの音で発音してしまいますが、その段階でイントネーションというか、リズム自体が英語から乖離しすぎていて、英語ネイティブの人間からは多分そうと認識されません。
ガラージは、典型的な"r"の発音が含まれる例です。そもそも、日本語のラ行は"r"の音でも"l"の音でも無いので、それを当てている段階でどーにもなりません。良く巻き舌で、と言われる"r"の音は、殆どの日本人は出せませんし、"l"との違いもきちんと認識できません。個別に聞かされれば何とか分かるが、会話の中で出てくる限り、判別はほぼ不可能でしょう。私も、時として人様向けにその違いをきちんと書き分けてあげたいと思うのですが、カタカナで書いている限りは、そんな音は無いのでどうしようもないのですよ…。強いて言えば、"r"はやや濁った感じの音になるのでラ行に濁点でも打とうかと思います。"l"の発音はまだラ行に近いですが、個人的な感覚では、どちらかというともう少し澄んだ音ですかね。なので、実際にはそんな単語は有りませんがgarageではなくgalargeという言葉があったとしたら、どう表記するつもりでしょう?それができない段階でナンセンスだと思うんですがねぇ。lightとliteは同じ音で、rightとwriteも普通区別は付きませんが、lightとrightを聞き分けられない英国人や米国人は居ません。でもカタカナにすると全部ライトですよ。野球のライトがこのどれか意識していますか?懐中電灯のライトがそれとは違う音だって認識していますか?していないのだとしたら、この議論自体無意味だと思うのですよ。
あと、ガラージの最初のガの音ですが…これも、発音する人によりけりな部分はありますが、所謂日本語のガの音ではないと思うのですよ…。比較的近づけるなら、忘れ物を思い出した瞬間の「あ」という音と同じ長さで、「グゥァ」を縮めて発音する感じかなぁ、と。少なくともこのときのgはガの始まりよりはグの始まり方に近い音です。口の内部的には巻き舌に近い感じで、舌を伸ばしている日本語のガとは大分違いますね。ガーデンとかもこの音になります。
セロフェイン…は、別にいいかなぁ?敢えてアドバイスすると、フェインで1音節なのでフェ・イ・ンみたいに切らずに、特にイの音を縮めて読むべきですかね?


とまあ、いう感じで…原音派の方々は、実際の音に少しでも近い方が良いはずという主張なんでしょうが…。個人的には、例えるならB29を竹槍で落とすための突き方の議論をしているようにしか思えないんですよね〜。
じゃあ、英語らしい発音は必要ないのか?と言われると…あった方がいいとは思いますが、それ以上に大事なことはもっと沢山ある、どうしても身につけたいのならば、日本語の掲示板などでの議論ではなく、ネイティブの先生との特訓しかないと思います。それも、身につけたい内容を明確化した上で、根気よく付き合って下さる、それこそ十把一絡げの英会話スクールなんかじゃないところの先生を見付けることだと思います。
何を言っているかというと、そもそも英語の発音を正しくと考えるなら、英語を日本語に発音を変換して発音、というプロセスを踏む段階でダメ。なので、英単語を前にそれをそのまま読む練習をするのが前提で、カタカナの表記を意識するなんて邪魔にしかなりません。
何度か、書いたことがある話ですし、自分ができるから言うわけじゃないですが、正しい発音を身につけるには、その音を聞き分けられるかどうかが非常に重要です。相手の音を聞いて、自分で真似をしようと試行錯誤して、同じ音が出せていることを確信できるのは、本来発音の練習では前提となる能力でしょう。一方で、そういった聞き分けの能力が身につくのは、一般に2〜3歳の頃、遅くとも5歳(この遅くともにギリギリ引っかかったのが私)の味覚の形成期と殆ど同じ頃だとか聞いたことがあります。どこまで信憑性があるかは分かりませんが。ただ、その頃に、英語圏に住んでいて、外の社会と触れ合っていれば、嫌でも身につくという実例を、私は沢山見てます(そう言った子供が幸福だったとはあまり思いませんが)。同じ子供の頃でも、小学校高学年に来た子供達には厳しいようで、現地の学校でかり出されるのは概ね、高学年の子との間の通訳でした(初期の頃から居たため、後からスコットランドの同じ学校に来た日本人の子供向けに、どうしても大事なことを伝えたい時、意図が伝わらない時などに別の学年の担任からの要請でピンポイントで呼び出し喰らってた…)。また、日本人学校とかの日本語のコミュニティーが形成されている場所ではダメだそうです。
そうは言っても、もうそんな歳じゃないし…それでも、身につけたいという場合。自分で聞き分けられない以上は、聞き分けられる人を前にして、ひたすら反復練習しか有りません。それも、正しい音が出るまで形を真似て、ダメ出しされ続けて、正しく出せたら今度はそれを定着するというものになります。自分が正しい音を出せているかどうかも分からないが、先生によると正しく発音できるようになってきたらしい…そういう感覚らしいです。そこまで根気よく付き合ってくれる、信頼感が醸成された先生が居ないと、そもそもそんな訓練できません。ちなみに、こちらの実例はスコットランド時代のうちの母親。当時、今の私と同じぐらいの年齢だったはずですが、そういう練習をしていたらしいです。まあ、向こうでの英会話は生活上で死活問題になる上、通じないとすぐに分かりますからねぇ…先生も責任重大だわ…。
逆に言えば、音が聞き取れないハンディキャップが有る上に、練習時間は生活全てを英語でまかなっているネイティブに劣る状況で、同じように話せるようになるには並大抵の努力では不可能だ、と思うのです。そして、そういった努力をしている人間より、たまたまその時期にそこにいたというだけで、聞き分けも発声もできる人間が優れているとは到底思えないんですが…いやはや、結果しか見ない世間の評価というのは残酷です。


話が変わりますが、大昔にあった英会話のCM。どこのだったかも覚えてませんが。バナナを持った先生と生徒役の中学生だか高校生だかの男の子、それに中村雅俊さんの3人が、バナナの発音を練習している奴。男の子の発音がどんどん良くなっていくのに中村雅俊さんの発音がそのままなのがオチになっているという。若いうちに始めればこんなに早く上達するよ、と言っているかのようでした。…意図的なミスリードでしょうけど。ポイントは2つ。
その1。上達するのは嘘ではないでしょうけど、バナナの発音練習は厳密には発音練習ではなく、イントネーションの練習でしかないので。そもそも、バナナが南国産のフルーツで有る以上、元の単語は英語圏のものではなく、構成されている音もほぼカタカナと同じです。なので、聞き取りもし易いですしイントネーションを併せるだけなら真似がし易い。結果的に、練習ですぐに真似ができる。でも、上記の通り、英語の発音練習の本当の地獄は、聞き取れない音を発声する練習にありますので…。もちろん、このCMはあくまで練習風景で、あなたもすぐに発音できるようになる、英語が話せるようになる、なんて一言も言っていないわけですが。
その2。そしてイントネーションの練習でしか無い以上、中村雅俊さんが上達しなかったのはヤラセ。


もう一つ、別のネタ。昔のTV番組、マジカル頭脳パワーの末期に合った、ダメなクイズで、擬音語を書き出して、他の人と一致しているほど得点が増えるという、実に日本人らしい、無言のコンセンサスを求めるもの。
例えば、ピストルを撃つ映像やガラスが割れる映像と共に音が流れ、今の音を書いて下さい、という感じ。ピストルならバーンとかパーンとか、ガラスならガシャーンとか。そういう、面白味も何もない回答を書くと一致して得点が貰えるという、下らなさすぎるクイズでした。実際に聞こえた音が何かじゃなく、なるべく一致しそうな音を書くべきだ、という認識は、賢そうな回答者ほど最初から、それ以外の方々にも1〜2問の間に広がり、以降、全く代わり映えのしない回答が並ぶという…。そんな中、唯一輝いていたのが間寛平さんでした。本当に聞こえた通りの音を書き出そうとするかのようなその姿勢は、時に独創的、時に確かに実際にはそう聞こえるかも!という不正解の山を築き上げられていました。お笑い芸人として、番組を少しでも盛り上げるため、様々な思いがあったのでしょう。そんな、姿が印象的でした。


さて、まあ、それは置いておいて。正確な発音をして欲しいなら、カタカナなんかにしないで、元の英単語書いておけば良いじゃない。あるいは、どうしても発音を重視したいなら発音記号でも併記すれば良いのではないでしょうか?カタカナで書く以上は、それは外来語であって、すでに日本語に取り入れられカスタマイズされたものということでしょうに。面白味に欠けるのかも知れませんが…そんなところで、無理して笑いを取りに行かなくても良いと思いますが。

*1:実際のところ元と元じゃないの境目なんて無いのでしょうけど、こうおっさんになってしまうと今更帰国子女もないだろうと思うので…

*2:訛りが矯正されるというのは、音が聞き分けられる結果、それを模倣するので。逆に、日本ではスコットランド訛りを聞く機会が皆無であるため、忘れてしまったということ。